銀紙ショートショート「鍵」
銀紙氏は最先端のクラッキングツールを作る天才科学者であった。
彼が部屋で目を覚ますと、ピピピと時計のアラームの音がするのが聞こえる。
やけに頭が重いな、と鏡を見ると、ヘンテコな帽子をかぶっている。
脱ごうとしてもうんともすんとも言わないし、これではまるでアンドロイドみたいだ。
どうしたことかと思ったが、とにかく騒がしい時計を止めようと、真っ白な四畳半の部屋の中にある机や鞄や棚を探しまわった。
だが、一向に見つかりそうにもない。次第に音が大きくなり頭の中にも鳴り響くようで不快感を覚えるようになった。
どこから聞こえているのかと目を瞑って耳を澄ますと、壁の向こう側から聞こえていることに気がつく。
仕方がないので壁をどうにかしようと近づくと、数字を打ち込むプレートがある。
とんでもなく難しい暗号のようだが、銀紙氏は容易にこれを解いてしまった。
壁がふたつに割れ、中に入ると白い部屋に時計がひとつ置かれていた。
やっと静かになる、と銀紙氏は安堵の表情で時計に手を伸ばし、アラームを止めた。
銀紙氏の意識はプツリと途切れ、力なくその場に倒れこんだ。
「2分24秒、新記録です。やりましたね銀紙博士!これで人型クラッキングツールが実用化にこぎつけます」
白衣を来た男たちが拍手をしている。
コツコツ、と白い部屋に入ってきたヘンテコな帽子をかぶった彼は静かに横たわるヘンテコな帽子をかぶった自分とよく似た顔のアンドロイドを眺め、笑った。
笑うとコツン、と一つネジが落ちた。
――この小説はフィクションであり、実在の名誉幹事長とは何の関わりもない。
竜崎大