シルバーペーパー

秘密結社「シルバーペーパー」

肉体労働哀歌

金は命より重い・・・・!そこの認識をごまかす輩は生涯地を這う・・・・・・!!」―利根川幸雄

 

世の中、金だ。擦れた中学生がそんなことを言っていると、ふふん可愛いもんだなんて思うのだが、社会人にもなるとそんなことも言ってられない。自分の生活は自分の金でどうにかするしかない。親の脛を齧って生きていけるやつはいい。現代の貴族だ。せいぜい食いつぶして暮らせ。金は無いよりは有ったほうがいい。金のない奴らは、働かねばならない。世の中の大部分はそういう人間の塊だろう。その中でも、働くという行為に疑問を抱く人種はどこかで破綻を迎えるという予感が身を蝕む。自暴自棄になり、理性で理解していることを拒否する。疑問は嫌悪感に変わり、嫌悪感は拒絶に変わる。そんな気がしてならない。そして、私は多分その人種だ。

 労働そのものに対する嫌悪感がある。別に手を抜くわけではない。むしろ根は真面目だから与えられた仕事は粉骨してこなす。ニホンジン的だ。社畜精神だ。だが、たまにその嫌悪感がどこから来るのかと考えることがある。猛烈な虚脱感、逃避願望、もしかして躁うつ病なのか、と思いもするが仕事が終わるとさっぱりなくなる。明らかに労働がトリガーになっている。誰かが耳元で「働きたくない」と囁いてる気もする。――不安の種。たぶん疑問なんだ。自分はこんなことをしていていいのか。本当にやりたいことは?使命は?生まれてきた意義は?ありもしない渇望のひとつ一つが不安の種になる。労働がなくなるとそいつもさっぱりなくなる。自分を強いていた声もどこか遠くへ行き即物的快楽に興じる。自慰だけが救い。それにしてもあいつは一体誰なんだ。

ゴールデンウィークに、某所のリゾートバイトに行ってきた。その行動を軽く記そう。

一日目

電車に乗って現地へ。ホテル内を軽く説明されたあと、寮に通されて半日寝ていた。仕事なし。

二日目

朝から客室清掃。3人一組で行う。枕カバーやシーツを剥いで取り替え。バイトはそのあと床に掃除機をかける。和室の場合、布団を上げる作業が加わる。間に休憩をはさみ14時頃までかかる。終わると仕事がないと言われたので寮で半日寝ていた。

三日目

同じく朝から昼まで客室清掃。中休みを挟んで夕方から今度はレストラン。とはいえ、役立たずのバイトはフロアに出ることもなく厨房からフロアまで料理を持っていく橋渡しのような役目をした。よくわからないから厨房の中をぐるぐる回っていたらあがりの時間。帰って酒を飲んで寝た。

四日目

朝から客室清掃。人数的にあぶれてしまってひたすら一人で枕カバーとシーツを剥いで布団をしまう作業だけをして、それでも時間が余ったので事務所でぼーっとする。早めに終わってそのまま東京へ。

 

以上。

半日寝ているときはひたすら読書をしながら「何をしに来たのだろうか」と問い続けて、働いているときも「もしかして奴隷として売られてきたのではないか」と考えていた。肉体労働という奴は厄介だ。何しろ両手は塞がるが頭は宙ぶらりんだ。ぐるぐるいらないことを考え続ける。たまに思考の渦巻きが口から飛び出して「ぽぺ」とかつぶやく始末。人間というのは割りとすごい。3人くらいいれば大体の作業は出来る。ただ、そのときは人間なのか機械なのかわからなくなる。なぜ、それをやる。金をもらっているから。その問答に意味は無い。確かに時間を切り売って金をもらっているわけだが、それでも意識は存在している。考えてしまう。私は誰だと。なぜ、それをやるかと。

肉体労働をするごとに毎回もう働かないぞと思う。いや、肉体労働だけじゃないが。どちらにしろ、この異様な働きたくなさを取り払って欲しい。ロボトミー手術でもなんでもしてくれ。身体は貸すから自意識を逃してくれ。解放してくれ。そんなことを思う。

労働をせずに金を得て生きるためには知恵を働かせるしかない。まあ、自分ではなく知恵は働くわけだが。金だ。生きるのには金がいる。その事実がありとあらゆる絶望を想起させる。ただ、無い知恵をしぼっても脳みそがカラカラになるだけだ。

絶望は人を死へと導く。死に至る病がジリジリとにじり寄る。どうしたらいい。そんなことを考えていたら何も考えていなかった毎日の平和な時間ですら思考の渦巻きに呑み込まれていく。

労働が憎い。

もはや、生きることが人に課せられた労働なんだろうと拗ねる。

働きたくない。石油王の娘と逢瀬を重ねて添い遂げたい。

 

 

 

 

お金ないんで楽そうなバイト紹介して下さい。

竜崎大