AnonymityとPseudonymity
Anonymity
- 匿名質。アイデンティティが存在しない。これは更に2つの匿名性に分類できる。後述。
Pseudonymity
私達が普段目にする「匿名」とは何か。或いは、Pseudonymityとは何か。
私達が普段使うWebサービスで「匿名」が謳われているものは、実際には多くがこのPseudonymityの方に該当する。
→Pseudonymity - Wikipedia, the free encyclopedia
例えば、日本で最も大きい「匿名」掲示板である2chで謳われている「匿名」は、実際はPseudonymityである。何故なら2chにはIDという物が存在しており、連続した書き込みにアイデンティティが付随する。板の設定によって、大体1日経てばIDが変わり、アイデンティティが消失するが、それでも通常使用の範囲においては、閲覧者はそこに人格を見出すことができるという点で、2chは匿名ではない。
同じ理由で、Twitterやはてなブログや個人サイト……私達が普段使っているほとんど全てのサービスは、IDが表出した時点で、Pseudonymityである。
本当の意味で「匿名性」について議論したい時には、AnonymityとPseudonymityは分けて考えねばならない。受け手からするとそれらは作者の素性が不明という共通項によって、一見同一のように見えるのだが、上で説明したように実際は全く異なる性質のものだからだ。作者の素性が不明=匿名、ではない。
本当の意味での匿名性とは何か。
Anonymityという単語が、本当の意味での匿名に該当する。また、Anonymity……匿名質には、実際には2つの匿名性が含まれている。
1つ目の匿名性
1つ目は「意図せずにアイデンティティが漏出している匿名性」だ。これはAnonymityという単語の定義の範囲内では完璧に匿名であることは間違いないのだが、見る人が見ると匿名ではなくなる匿名性という点で、本質的には区別すべきものである。
例えば、はてなユーザーなら一回は見たことがあるはずの、インターネットの闇の巣窟、はてな匿名ダイアリー、通称「増田」は、結構な頻度で第三者によって著者が特定される事態に至っている。増田のように元々炎上しやすいような性質を持っている媒体は、公開期間もしくは読者数に逆比例して匿名性が減少する。
何故アイデンティティが漏出するのか。何故匿名のはずなのに個人が特定されるのか。それは情報にはメタ情報が付随するからである。
例えばその媒体が「文章」なら、
- 「一人称」
- 「方言(ネットスラングも含む)」
- 「文体」
- 「句読点の種類の使い分け」
- 「句読点の頻度」
- 「著者しか知り得ない情報」
- 「その文章に対する大衆のコメント」
等が、メタ情報に相当する。
媒体が「写真」なら、
- 「EXIF情報」(特に、珍しいスマホを使っている場合に、個人が特定されやすい)
- 「被写体が何か」
- 「被写体の表情」
- 「撮影場所」
- 「撮影日時」
- 「撮影イベント名」
- 「撮影権利」(例えば、シェアハウス内部の写真は、そのシェアハウスの住人もしくは、せいぜい知り合いの知り合いレベルに近い人しか撮影できない。)
- 「写真の画質による機材の推定」
- 「撮影機材による撮影者の資金力・趣味・職業の推定」
等がメタ情報として挙げられる。
これらは、媒体の中に明示的に存在しているわけではなく、人間がその媒体を読み取る過程において、自らの知識と記憶の中から引き出すことのできる情報である。つまり、情報としてのソースが異なる。媒体自体は、ソースはその媒体そのものだが、メタ情報は、読者の脳がソースである。
また、媒体が何であれど、結構な割合で決め手になるのは「その作者しか知り得ない情報」である。例えば、これは企業の社員が内部告発する時の内容や、レイプ被害者が裁判を起こす際の個人情報など……、ネットに限らずともクリティカルな情報であることが多い。
2つ目の匿名性
2つ目の匿名性は、「本当の意味で完全な匿名性」だ。
これは、実際にはほぼ存在しない。例えば、インターネットそのものが完全な匿名ではない。インターネットで犯罪を起こすと、警察がプロバイダに連絡をして、IPアドレスから書き込み元を辿ることができる。つまり、もしサービス上は完全な匿名性が確保されているWebサイトが存在していたとしても、その内容が犯罪に該当すれば、匿名性は破壊される。破壊される匿名性は、匿名の定義に相反するので、匿名ではない。故に、インターネットは匿名ではない。
同様に、現実社会にも完全な匿名性はほとんど存在しない。車を運転するのには免許が必要だし、車にはナンバープレートがついているし、車種ですら個人を特定する要素に十分なりうる。街を歩けば監視カメラに記録されるし、「その時間その場所にいることができる人物」という情報ですら匿名性を破壊する要因になりうる。
唯一、本当の匿名性が確保されるのは、管理者が存在しない場所で、目撃者がいない状態で実行した行為のみである。例えば、街灯が1本も立っていないような死角で、時限装置付きのバイオテロを決行したとしても、それは高確率で犯人の特定には至らないだろう。せいぜい、「その細菌を合成できる技術を持つ人物」というメタ情報くらいしか、メタ情報が存在しない。また、犯罪に該当しないものについては、通常匿名性をわざわざ暴こうとする人はあまりいないので、匿名性が確保される場合が多い。例えば、深夜の路上で全裸で脱糞したとしても、目撃者がいなければ、完全な匿名性が確保される。何故なら、人は路上に落ちている糞のソースなど気にしないからだ。
「匿名」
自分が無意識に使う「匿名」という言葉が、実際にはどのレベルでの匿名性を確保できているのか、「匿名」という単語を使う前に、一度振り返ってみよう。
世の中には、驚くほど「匿名」が少ない。