シルバーペーパー

秘密結社「シルバーペーパー」

何十回同じものを読み、何百回同じものを聴く

生きていて出会う人のなかで、不思議だなあと思うのは、音楽を聞いていて1回聴いたらもういいやって投げ出して、もう二度と聴かないタイプ。本を読んだらどんな好きな本でも1回しか読まない、みたいな人たちだ。

本も音楽も、別に私自身飽きたという体験がないわけではない。しかし音楽なんて特にそうだけれど、数百回とリピート再生していても気に入っているうちは特段飽きたという感じがしない。好きな曲は無限に聞き続けられる。

 

「先」を聴く感覚

自分でも不気味に思う時があるのだが、一つの曲で数百回くらいは当たり前のように聞く。聞くたびに今まで聞こえてなかった楽器のパートや、その作曲家とか編曲家独自のパターンなど、意外に新しい発見があったりするので数百回くらいは平気でリピート再生してしまう。そしてなによりも「先」が見えることが楽しい。何度も繰り返してるので体感的に次に何が来るのか分かる、その先読みの感覚が楽しいのである。

そうして何百回何千回と繰り返し耳にして、体力的に気持ち悪くなってきたら新たな刺激をもとめてCD音源やYoutubeの波をさまよう。

アルバム単位で曲を聞く、という感覚は個人的には薄くて、基本的に作曲者単位で探した曲をプレイリストにぶち込んでひたすらそれを聴き続けている。楽曲をアルバム単位で聴かないのは曲調の好き嫌いが割とはっきりしているせいかもしれない。

 

物事のリピート性

まあ、そうはいっても、なんでもかんでも繰り返し楽しんでるわけではなくて、もちろん好きなものだけだ。しかし好きなものの中にも繰り返し楽しめるものとそうでないものがある。最近、物事の繰り返しやすさ、みたいなことを考えている。リピート性というのは勝手に作った造語で、個人的な飽きにくさの指標だ。

 

 

時間によって進行しながらも、あまり物語性への依存がないもの、に強く惹かれる。音楽はそれを充足している。そういった意味では、展開が予測可能である、というところがひとつのキーポイントだろう。自分自身の浮かべた通りの筋書きで進行する物事が好きだ。

音楽を聴くという行為のなかで、ひょっとすると自分は、次の展開がどうなるかを予見すること、それ自体に快楽を感じているのではないか、みたいな時がある。

ところで私は、王道作品が好きだ。王道だけど、ちょっとひねった作品が好きだ。映画にしろなんにしろ、王道作品であればあるほど、「ジャンル」のテイスト自体はすぐに思い出せるので、ある程度のイメージの外枠が埋まる。しかし王道であればあるほど、王道であればこそ、細部のディテールの違いが生まれるのである。そうしてうまれた細かなディテールの違いが、私にとっての予測の困難さ、みたいなものを生み出している。それが楽しい。絶妙なバランス感覚が大事だ。読めすぎても読めなさ過ぎても面白くない。

 

「どっから見始めてもいい」感

何処から見始めてもよくて、どっから終わらせても楽しい。どこで切っても楽しめる、みたいなのは大事だ。なんというか、繰り返して楽しみやすいって感覚の根源ってそこだと思う。

ところで、金太郎飴をご存知だろうか。あの細長くにょろーとした形で、切ると断面に絵の描いてある、海苔巻きみたいな飴のことである。金太郎飴はどこから切っても同じ絵が出てくる。あれが私の考える作品の理想形だ、と言ったら、人はどんな顔をするだろう。まあ、もちろんこれは単なるモノのたとえである。

何ページから読んでもそこそこ楽しめるし、何秒から見始めても面白い、何処から切っても変わらないまさに金太郎飴みたいな作品が、リピート性を最も満たしうる作品だ、と考えている。そしてそのためには話がありふれているか、話がないかのどちらかが要求される。

時間ごとの変化がないと、進行の先読みが出来ない。しかしある程度どこから切り取っても楽しめる必要がある。これらを満たす媒体、そういう意味でいうと、音楽のほかに、昔は4コマ漫画にはまっていた。理由は普通のマンガに比べてストーリーがあんまりないから。というか4コマ作品というのは、昔のものは殊更にそうだけれど、山なし落ちなし意味なし、みたいなのが多い。つまり、どっから読みはじめてもどこで読み終わってもいいときてる。もちろん、4コママンガというからには、当然コマが存在する。すなわち時間という変数もあるわけで、前段の全ての条件を満たしている。これほどリピート性が高いのもなかなかない。

ジャンルのイメージが既に固まっているもののなかで、細部のディテールの違いを楽しみ、それが自分の記憶通りに進むかどうかを確かめる。そういう活動が好き。音楽を聴くのもそうだ。曲そのものが好きというより、自分の中にある先読みした結果に対して、答え合わせしている感覚かもしれない。

でもこれって本来の楽しみかたとしてはズレてるよなぁ、みたいに思ったりもする。

 

それでもやっぱり繰り返したい

やっぱり今日も同じ音楽を聴き、同じ映像を観ている。

同じものの繰り返しの中に、先の展開が見えそうで見えない、一種のチラリズムを感じている。

ジャンルの枠が決まっているもの、ジャンルの枠からはみ出ないもの。しかし王道性がありながらもどこか捻りがあるもの。だいたい予測できるのに、なぜだか先が予測しにくい未来。

見えそうで見えない女子高生のパンツ、的な。

ま、しょせん布きれだって、わかってはいるんだけど、気になっちゃうよね的な。

 

はのん