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秘密結社「シルバーペーパー」

原村「宮永さんと結婚したい」

LGBTなどの性的少数者に対してある意味で寛容、ある意味で無関心の日本だが、ところでこの国で同性婚が認められる可能性はあるだろうか。憲法の視点に立って考えてみたい。

日本国憲法 第二十四条

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

○2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。 

まずは条文解釈である。「両性」とは無論、男女を指す。「夫婦」は男女がつがいである状態を指す言葉だろう。文面通りにとらえれば、この国の憲法は異性同士の婚姻を前提としており、同性間の婚姻は全く予定していない、ゆえに同性婚は認められない、文面上明らかなのだから憲法問題ですらない、となるのだが、個人的にはそのような主張は人権の性質について全く取り違えてたものに思われる。

まずもって、憲法の性格に着目してみたい。近代憲法の基本理念は人権保障と権力抑制であり、人権保障については認められうる限りで広く解釈し、権力抑制については厳格な狭い解釈をとる必要がある。

憲法10条から40条までの人権カタログ部分が、当時認められていた人権の列挙および特に保障されるべき種類の人権の強調のためにあると考えれば、時代の経過と共に「新たな人権」*1が追加されることは妨げられるべきではないし、起草者の予定するところと考えられる*2。もちろん、環境権やプライバシー権などの「新たな人権」の認定は容易になされるものではなく、他者の権利と競合する恐れのあるものについては公共の福祉の制約を受けるか、場合によっては新たな人権として認められない。

つまり、憲法における同性婚の問題は「同性と婚姻を結ぶ権利」が何がしかの利益を侵害するかに絞られるのだが、同性婚はこの一点で全く問題がない。なぜなら当人同士の合意で為される婚姻は他者に全く迷惑をかけないからである。ゆえに内在的制約や公共福祉の制約でこの権利を認めないという議論は元より成り立たない。では、同性婚が認められることを前提として、新しい憲法解釈をどのように構築すべきであろうか。

ここで24条の目的に立ち返ろう。本条が企図したものは、封建時代の遺物である婚姻の強制と男性優位の家主制度を打破し、男女の本質的平等と家庭内においても個人が尊重される社会*3を実現・達成することである。そのために重視されるのは、家族の構成員が男女の夫婦と血縁の親子によることではなく、各人の意思によって共に家庭を営む相互扶助の状態が存在していることである*4

このように考えると、24条の文言の捉え方も変わってくる。つまり「両性」とは独立した男女性の概念であり、男・女の組み合わせは当然のこと、男・男の組み合わせ、女・女の組み合わせも広義の「夫婦」と見なす、と再定義できるのではないか。

以上より、24条の規定は憲法の本質的性格からも同性婚を禁止する立法趣旨などは含んでおらず、むしろ個人の尊厳が守られる限りにおいて、多様な「夫婦」・家族のあり方を認めていると考えるのが私見である。

もし明文改憲にまで至るのであれば、以下のような文面はいかがだろうか。

日本国憲法 第二十四条 改正私案

婚姻は、両者の合意のみに基いて成立し、男女*5が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

○2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と男女の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。 

 

 補論

同性婚を認めることは、子どもを産まない・産めない家庭を増やすこと*6であり、国家存続の観点からは好ましくないかもしれない。保守政党同性婚に反対する理由もしばしばこれである。しかし、産めや増やせやの目的で家庭を保護することは前近代的な家産国家の思想であり、個人同士が家庭を形成する自由を侵害するための論拠となってはならない。

少子化対策に代表される人口政策は社会保障制度維持などのためにも重要な施策であることは否定しないが、子どもを産む誘因を作るために他を犠牲にする、他と処遇に差をつけるというような手法ではなく、夫婦が子どもを産めない原因を除去していく観点から種々の方策を取っていくべきと考える。

 

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呵呵大笑

*1:「新しい権利」は人権の一般条項とされる13条(幸福追求権)を根拠とする場合が多い。

*2:そもそも人権の内容は明文化されるべきでないという考え方はアメリカ憲法学で根強い。合衆国憲法が起草時に人権条項を持っていなかったことは示唆的である。

*3:伝統的な公私二分論に基づいた私人間効力の学説は家庭内暴力などの問題に無力であったため、社会学では新たに個的領域―親的領域―公的領域の三分論が唱えられ、法律学もこの考え方を受容し始めている。

*4:家族法において、法律的な様式や血縁関係より家庭を形成している実態そのものを重視する潮流は最近の判例からも顕著である。

*5:性同一性障害なども含んだ広義の性別を指す。

*6:そういえば、iPS細胞というので同性の間でも子供ができるらしいです。