シルバーペーパー

秘密結社「シルバーペーパー」

味覚の喪失

美味しい物を美味しいと思えるのは美味しかった時の記憶があるからだ。物を食べて味が分かるからと謂えどもそれが本当に刹那的な事象だとしたら我々は食べ物について「美味しかった」と発言することが叶わないであろう。即ち味覚とは感情のような純粋な身体的反応ではない。何が感情を保証するか。記憶である。味覚というのはその場の実体験ではなく過去との経験の比較によって生成される。味覚とは私たちが夜ごとに見る夢のようなものである。それはしばしば生成され、上書きされ、そして忘却される。私たちが経験しているのは完全な食事の経験そのものではなく、残された夢のような茫漠とした記憶を繋ぎあわせたものであり、私たちはそこに言葉を紡ぎ出し、ただそれを即興で語るのみである。