押井守を投げ出して、「太陽の王子 ホルスの大冒険」を観た
さて、残念な話から始めると、こないだ『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』をレンタルしてきたのでさっき観始めた所だったのだが、これがどうも、視聴開始して10分くらいであんまり今の気分に合わない気がしたので、とりあえず保留、と言うかたちになってしまった。蓋を開けた瞬間、まさに蒸気とも言うべきであろうか、もわっとしているという表現をしたくなるほど、のっけから押井守臭が途轍もない。彼の作品のあの感じ、まあついこの間パト2で味わい尽くしたし、今日の気分ではない、となった。
日記的な雑文
そういうわけなので、また近いうちに見るかもしれないが、それはともかくとして、今日はこれから『太陽の王子 ホルスの大冒険』を見ようと思っている。ホルスは68年公開の作品で、高畑勲の初監督作品である。この作品自体は一部のファン以外の間ではそれほど知名度が高いわけでもなく、当時の興行収入としてもあまり奮わなかったようだ。しかしながら森康二や、今だと宮崎駿や大塚康生といったビッグネームが直々に手がけた作品である、これは見ておかねばなるまい。
それにしても1968年、というと、今は2014年であるから、もう半世紀近く前の作品ということになるのであろうか。日本の劇場アニメの金字塔とも評され、その後に続くアニメーション作品へ及ぼした影響も絶大なようであるから、果たしていったいどのような作品なのだろうか、大変楽しみにしている。(2014/10/07 20:32:28)
とここまでが前振りである。
以下は実際に試聴した後の感想。
あらすじ
公式サイト(http://www.toei-anim.co.jp/lineup/movie/movie_horus/)より引用。
海辺に父と二人で住むホルスは、岩男のモーグの肩に刺さっていた二本の剣を手に入れた。
その剣は太陽の剣と呼ばれる名剣で、その剣を鍛え上げ、使いこなせるようになった時、ホルスは太陽の王子 とよばようとモーグは言う。
父を失ったホルスは、一切合切を焼くと、父の遺言に従い人々のいる北の村に向かってコロとともに舟出した 。再びこの地に帰ることはない。
途中ホルスは悪魔グルンワルドに弟になれと誘われるが断って、崖から落とされてしまう。ホルスは 倒れたまま流氷にのって村に流れ着いた。
ホルスは村の一員として受入れられるかに思えたが、グルンワルドのたくらみで村に送り込まれた一人の 少女ヒルダのために、村人達の不信を買い、とうとう村を追い出されてしまう。悪魔が勝つかに見えた。
そして視聴後の感想
そんなこんなでホルスを観たわけだが。
話自体はつまらなくはない、がしかし面白くもない。というのが率直な感想であろう。楽しむためには公開されたのが68年だから、という注釈が必要かもしれないと思っていて、一緒に見ていた知人も同じ感想を共有していたようだった。というのも、今日日の映画や小説の、複雑化した物語展開に慣れきった私たちにとっては、この作品はいささか地味に映る――話はわざとらしいし、ヒロイン像含めキャラクターたちも今日では見飽きたようなもので陳腐に写ってしまう。
しかしこの「見飽きたようなもの」を作ったのだという事実はどうしようもなく凄いのは確かだ。
この作品、当時の東映のなかでもずば抜けた人材をかき集めて作った、いわば天才集団の作品である。序盤はまんま西洋アニメの影響下*1のフルアニメーションなのだが、途中のシーンから徐々に逸脱したリミテッド的な様式美の立ち上がりが見える*2。狼のシーンあたりは見応えがある。
日本のアニメは間違いなくこの後進化し続けていったのだが、この頃にはすでに原型というか流れの一端が存在している訳で、デジタル化による技術面でのパラダイムシフトなんて、取沙汰されている割には、アニメというメディア全体のなかでは今のところ大したことのないスケールの影響しか与えられていないのではないかとすら感じさせせられる。
それくらい、出来は良い。本作も、小奇麗に小奇麗にと一方向に縮こまってしまった今のアニメにない動きのケレン味とか、ハッタリ感とか、歩き一つとってもすごく生き生きとしていて良さがある。絵に興味のある人なら普通に楽しめる作品だと思う。
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セルのよさは画面の馴染みのよさもあるし、撮影のアナログな手作業感、奥深さもあるし、なにより制約の多い分、視聴者側と作り手の側にリアリティを求めないという割り切った暗黙の契約があって、しかもこの頃はまだアニメーションという表現そのものが開拓の途上で、一種のフロンティア・スピリットというか、圧倒的な自由があったというその一点に尽きる。今のアニメが悪いとは言わないけど、それにしても、最近立て続けに古いアニメ作品を見続けていると、どうもこう、セルアニメの時代が終わってしまったというのがひどく残念なことのように思う。