シルバーペーパー

秘密結社「シルバーペーパー」

アファーマティブ・アクションについての覚書

アファーマティブ・アクションaffirmative action)、意訳すれば「積極的差別是正措置」、より有り体にいえば「根源的差別解消のための一時的な差別優遇措置」である。出身・人種・民族・性差などに由来する歴史的・構造的な差別(Discrimination)を解消するため、一般に政府が働きかけて被差別集団を採用・人事等の面で優遇する政策のこと。思想的には進歩主義社会改良主義、設計主義的合理主義などを背景とする。

先進国の状況

かような措置が取られている国は欧米の先進諸国が主である。特にアメリカにおいては黒人や先住民族、北欧においては女性に対して諸々の優遇措置が取られている。手段としては大学の入試や企業・政府の採用において、対象とする弱者集団のために特別の枠を用意したり、人事で有利になるよう評価に一定の加算をするなどの措置が取られる。政策の達成目標は人口比で決められる場合が多い。よって、女性に対する措置の場合は男女半々の比率が最終目標となるだろう。これらの政策に対する賛否は拮抗している。進歩的な社会政策として評価する者もいれば、競争を歪める、数字の上で効果が出ていないと批判する向きもある。論争的な問題であるだけに制度の改廃も激しい。

日本の状況

日本における深刻な差別問題は女性の雇用待遇だろう。日本の管理職の女性比率は先進国どころか発展途上国に比べても著しく低い。しかし日本政府は雇用男女比について努力目標の勧告を出すのがせいぜいで、強行規定を伴った是正措置は取られていない。一部自治体・企業では部落出身者や女性に対して優遇措置のあるところも存在するようだが、全国的な運動にはなっていない。企業の障害者特別採用枠はよく知られているが、明らかなハンデを持つ障害者の差別問題と、潜在的能力において平等とされる人種・性差等の差別問題を同一視すべきではないだろう。ちなみに、第二次安倍内閣は「女性活躍」を打ち出し内閣改造で女性閣僚を多く起用したことで話題になったが、これは一種の政治的パフォーマンスであって、制定法に根拠付けられたアファーマティブ・アクションではない。

アファーマティブ・アクション憲法に違反するか?

一種の逆差別であるアファーマティブ・アクション違憲と見なすか否かは、憲法14条を解釈する上で「形式的平等」を重視するか「実質的平等」を重視するかの政治的な判断に委ねられるのが実際のところであろう。厳密な解釈を取れば14条1項はあらゆる制度的な差別を禁じる「形式的平等」の規定であり、アファーマティブ・アクション違憲と判断されるだろう。しかし、日本では長らく女性が制度的・社会的な差別を受けてきた歴史があり、現在でも組織の上位ポストに女性が少なく非正規雇用の比率が高い状況等を鑑みれば、社会の意識転換のために政府が積極的な措置を講じて男女の「実質的平等」を達成せんとする趣旨は、必ずしも憲法の理念に反するところではないと考えることもできる。おそらくこの問題に関して裁判所は立法府に従うと思われるので、もし国会で強行規定を含む積極的是正措置の法案が成立すれば、(よほど手段がお粗末でない限り)有権者多数の選択として裁判所は違憲判断を避けるだろう。

筆者の私見

政府に積極的な役割を求めない立場である筆者としては、アファーマティブ・アクションには否定的である。政府の運営する諸制度は日夜変化し続ける社会に柔軟に対応することを求められるが、社会の全容を正しく把握して制度に適切に反映させるには人間の知見は余りにも狭い。女性抑圧の歴史は否定できないが、今現在「形式的平等」が守られている以上は女性の側からの自発的な働きかけに期待したいところである。