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秘密結社「シルバーペーパー」

『王立宇宙軍 オネアミスの翼('87 日本)』―山賀博之

正直に白状すると、昔からガイナックス作品のノリが苦手だ。周囲の強い勧めもあって、エヴァンゲリオンは観たし、グレンラガンも観たし、他にもいくつか作品を観た気がするのだが、どうにも生理的に合わないらしい。

昔は、フィルムはフィルムの中で単体で完結しているべきで外部の設定で補うなんてもってのほか、という強い信念が自分の中にあって、そういう点では勢いとテンションに任せ、エッセンスとしての意味深長な設定で視聴者を押し切り、インフレした力によって宇宙規模の壮大なストーリーに話が広がって、急転直下のエンディング、視聴者呆然、というようなガイナの様式美に対する感覚が致命的に肌に合わないのだった。ただアニメをしっかりと見始めてから数年を重ねてきて頭が柔らかくなってきたようで、そういう理屈を押し切ったフィルムというものに随分耐性が出てきた。

最近観たトップをねらえ2!もそういった意味では、こと映像作品単体としてみたときは、相当勢い任せな印象を受けるのだが、演出や動かし方といったディテールを気にして見る分には存外楽しめたし、こういったガイナックス的なグルーヴに多くの人が魅力を感じるのも分かる気がした。必ずしも脚本的合理性から外れていることが間違っているわけでもないのだ、という割り切った見方ができるようになったのが鑑賞者としての自分の数年の進歩だと思う。今エヴァなりグレンラガンなりを見返せばそれはそれで得るものが有るのかもしれない、なんてことを思いつつ、ここで一度体系的に理解するためにはやはり原点回帰する必要があるだろうと考えての「王立宇宙軍 オネアミスの翼」鑑賞。

 

 

総製作費は約8億円、スタッフの平均年齢はわずか24歳、若きクリエイター集団によるガイナ創設のきっかけとなった作品である本作。直近にゼロ・グラヴィティを見ていたのだけど、宇宙へ行く話と宇宙から帰る話、しかもかたや人間ドラマ、かたやド派手なアクションムービーと真っ向から対立するアプローチの作品として非常に対照的で面白かった。

 

で、この作品。結論から言えば、世間で言うほど面白くない。見終わった直後はいい話だな、という感覚が残るのだが、時間が経過するにつれてイライラするという不思議な感覚。主人公シロツグを演じる森本レオの演技は悪評の割に気にならなかったし、そこらへんの声優の紋切り型な演技より個性が光っていて良かったと思った。

部分部分ではコミカルで面白いのだが、主人公の心情変化があまりにも雑な印象をうける。ヒロインが新興宗教の勧誘役なのだが、このご時世に見るとどうにも胡散臭い女だという印象以上を受けられず、まんまと惚れ込んでしまい家にまで押しかけ、命をかけて宇宙飛行士に立候補する主人公、という一連の流れに今ひとつ説得力がないように感じられる。ただのカルトおばさんというイメージしか残らないせいで、全く感情移入できない。とにかく、なんというか、全体的にスピリチュアル。公開された87年という時代を考えれば仕方のない事なのかもしれない。

敵国の暗殺者に追われるシリアスな展開も、銃が出てくる割に一発撃ってからの間がいやに長いせいで異常に間延びして見える。そのせいか非常にふざけたシーンに見えるし、敵がとんでもなく間抜けに見える。主人公がヒロインをレイプしようとして襲いかかったのに、翌朝は何事もなかったかのように挨拶する感覚も一般的感覚としては理解しがたい。特に物語に影響していない気もするし、あのシーンは何だったのだろう、という喉に刺さった小骨のような漠然とした違和感が残り続ける。宇宙飛行士になるための訓練シーンも、特に伏線もなくただただ見せられているだけ、という感じだし、フィルム自体観客に対して見せたいものがバラバラというか、継ぎ接ぎというか、ちぐはぐでイマイチ盛り上がらない。

ただ、序盤は楽しめたし、ラストシーンの庵野打ち上げパートに関しては圧巻の一言。既に数回は見てきたはずなのだが、何度観ても息を飲む美しさ。ここだけは本当に評価したい。ただもっと見せ方さえ工夫できれば更に面白く出来たと思う。全編を通してそうなのだが、冗長なカット割りのせいで作画の勢いを削いでしまっている感じがしてもったいない。あとは美監の小倉宏昌がたまらない。

結論としては、売れなかったのは見れば分かるかな、という作品。しかしオネアミスから考えるとエヴァでさえ随分キャッチーな方向に進んだのだなあと思った。(私には未だになぜあれほどのカルト映像が大衆の人気が獲得できるのかわからないのだけれど)

 

はのん