シルバーペーパー

秘密結社「シルバーペーパー」

本屋の変態

出版不況と相まって本屋の景気が悪い。電子書籍市場と合わせれば出版業界全体で実はそんなに売上は落ちていないとの調査結果もあるが、紙の本を売る店にとっては何の慰めにもならない。

私の身近でも最近二軒の本屋が潰れた。ひとつはいつ潰れてもおかしくなさそうな個人経営の本屋だったが、もうひとつが大学近くの駅前という立地かつそれなりの大きさだったので、閉店の知らせを見たときは大層驚いた。チェーン全体での経営合理化のためか、学生が本を読まなくなっていることの証左か。いずれにしても、取り立てて特徴がないことが二軒の本屋の共通点だった。

全国の書店総数が目に見えて減っていくなかで、最近はカフェを併設したり、品揃えを雑誌・新刊中心から店主の趣味嗜好に合わせたものにしたり、催事を増やしたり、物質的な「場」を持つ本屋ならではの個性を出そうとする店が増えている。どれも目新しいスタイルではないが、転換期の生き残りモデルとして再度注目されているのだろう。

電子書籍とネットショップが勃興し、本を買うため本屋まで足を伸ばさなくてもいい時代に、なんとしても客の足を本屋に向けさせなければならない。しかし、大半の店が品揃え・価格ともにネットの新勢力に太刀打ちできない。取次から送られる配本を並べるだけの店が淘汰されるのは必然といえば必然である。これまでのやり方で生き残れるのは地域の中核となるような規模の店か、都会でよほど立地のいい店か、体力のあるチェーン店だけだろう。

では、そのどれにも当たらない店はどうするべきか。土地も資本も多くを持たない零細でもすぐにできることは、やはり魅力ある棚作りとなる。客層を絞り込みたいならそのジャンルへの深い知識が、時局に合ったものを売りたいなら社会への強い関心(優れたアンテナ)が求められる。そのためには棚を担当する店員各々の不断の努力が必要になるわけだが、これまで書店業にそういったものが必要とされてこなかった時代の方がおかしかったのではないか、ようやく正常化の波が来たのではないかとすら思う。読書経験皆無の人間を雇うなど個人的には信じられないことだが、悲しいことにこれまで勤めてきた店には結構な数そういう人間がいた。どうせ同じ賃金で雇うなら、たとえば客に文豪の本を尋ねられて即答できるとか、それくらい本を知る人間の方がいいことは間違いないだろう。些細なことかもしれないが、その積み重ねが本屋だけの体験を生む土壌になるはずである。

小規模な書店業にもまだまだやりようが残されていると思う。漫然と客のニーズに合わせた棚作りではなく、客を教育洗脳するくらいの意気込みを持った棚作りを! ……これは私個人の願望でもある。が、不況でも夢を語るのが、いやしくも文化の発信地を名乗る本屋の仕事ではないか。消沈した社会だが、個人まで消沈することはない。粋なことをする人間が、もう少し増えてもいい。

一人の本屋好きのぼやきである。